- とちぎのしゅし
- 「カラペハリエ」|ネガポジ転換論
「カラペハリエ」|ネガポジ転換論
コピー用紙に絵具などで好きなように色や模様をつける「カラリエーションペーパー(通称カラペ)」と呼ばれる制作物があります。それを元に「絵本」や「オブジェ」などに「貼り絵」として、その作品を貼り付けることで「プロダクト」を生み出すプロジェクト「カラペハリエ」。
僕がこのプロジェクトのブランディングに関わり出したのは、2018年の初めから。その頃は毎月のようにビジョンについて深く考え、想いを言語化するフェーズでした。
プロジェクトを通し伝えたいことは「個性を認め合う」「違うから面白い」ということ。言葉にすれば「そりゃそうだよね」と感じてしまうこと。しかし理解したようなつもりでも、行動して実践できる人は少ない。それが「軽いようで重みのある」この言葉の実態なんだと思います。
分断の時代を経て、グラデーション化していく世界の中、この「カラペハリエ」がもたらす「価値転換」についてご紹介します。
目次
色の違いを自己肯定へ
青柳 徹(以下 青):元々の課題意識は、どういうところだったのかな?なんのために始めたんだっけ?
今井 絵理(以下 絵):最初は「わが子のために手作り絵本を作りたい!」からのスタートでした。
共同創始者の永田江里子ちゃんが絵本が大好きな人で、「絵本作家になる」という夢があったんです。彼女はすごく遠い未来の夢として描いていたので、私が「今から作ってみようよ!」と提案したんです。
私も絵本が好きだったので、一緒に作ってみようってことになり、そこから始まりました。でも、絵を描いてみたら二人とも下手で(笑)。何かを解決したくて始めたというよりも、夢を叶えたくてスタートしたという感じですね。
青:絵理ちゃんは夢に乗っかったんだね。
絵:江里子ちゃんの夢を叶えてあげられると思ったんですよね。
実は私、子供の頃に「絵本教室」に通っていたことがあったんです。絵本作りを経験していたので、そこにハードルは感じなかった。作ろうと思えば作れるものだと認識していたので「すぐに解決してあげられるよ!」と提案して作ってみました。
それから絵本作りを体験してくれる人が増えて、「絵本キット」として出版する構想も出たりしました。
青:そもそも、どうして絵本だったのかな。
絵:基本的に絵本は好きだったんですけど、その背景には「母によく読み聞かせをしてもらっいたこと」があると思うんです。絵本には母との思い出も含まれている。母にたくさん読んでもらった体験が「愛された記憶」として絵本にプラスされている気がします。
青:絵本に携わることで、温かい気持ちになれるという紐付けがされているんだね。
絵:私は原体験として持っているけど、他の人では「親から読み聞かせしてもらっていない」とか、絵本に触れて来なかった人にとっては「なぜ絵本なの?」となったりします。
青:最初は絵本だったけど、そこから「手段」が広がるんだね。
表現する手段
絵:そうです。カラペも絵本を作る「手段」としてセットにしてました。
青:カラペは「はらぺこあおむし」で有名な絵本作家エリック・カールさんの手法を参考にして始めたんだよね。最初からカラペが「個性認識」に通じていると思ってたの?
絵:思っていなかったです。絵が苦手でも絵本が作れる素材としてのカラペでした。
まず、絵が苦手な方、絵心がない方が絵本を作るにはどうしたらいいのか?から模索が始まりました。それを解決してくれるツールとして考えたのが「カラペ」であり「貼り絵」だったんです。
絵に苦手意識がある方でもチャレンジしやすく、苦手意識があったからこそ絵本が出来上がったときの感動が凄く大きい!ワークショップに参加してくれた人たちも、「こんな絵心のない私でも絵本ができた」というのが大きな感動に繋がって、想いを乗せた絵本自体も、子供に「大切だよ」と伝えることができるツールになった。
それに、普通の主婦が何日もかかって作品を作り上げたとういう体験や、自分一人だけじゃなくて他の方のカラぺも使って作ることができたという感動の体験にも繋がっています。
青:苦手だと、まずやろうと思わないよね。
絵:私も絵が苦手だったから、子供の頃から絵を描こうと思わなかったし、絵の分野の成長の可能性は自分でも捨てていました。
個性の見える化
青:まさにアートは表現だから、正解・不正解がないよね。
絵:絵は得意な人たちがやる分野だと思ってたから、アートについて深く考えたことはなかったけれど、この活動によって急に生活の中でアートが身近になりました。
活動してるうちに「アートに正解・不正解はないし、上手い下手もない。」というところに行き着いて、まさに「個性」そのものだなと。そこに気付いてから活動の軸が「個性」に変化していきました。
世の中では「こうあるべき」という固定観念が蔓延していると思っていて、育つ環境でそういった感覚にさらされる場合が多い。いわゆる「一般」の枠に収まるように生きなければいけないと思い込んでいたことに改めて気付いたんです。
「カラペ」はどんな色を表現しても、どんな個性を持っていても、それはその人の「カラー」で尊重されるべきだなって様々なシーンで実感しました。「カラペ」は個性を見える化できるツールだから、自分の個性を実感したり、「あなたはそれで素晴らしい」と言える機会を作れると思ったんです。
気持ちを素直に伝えるギフト
青:最初は絵本を作りたい人向けにやってたよね。コンセプトも「親から子供へのギフト」というのもあったよね?
絵:そうです。一番最初にやったワークショップが「クリスマスプレゼントに、子供に絵本を贈ろう!」という企画で、カラペ作りを夏前から始めたんです。
この企画では「たからもの」という絵本を作りました。子供に向けて「あなたは私の宝物なんだよ」という想いを伝える内容です。あまり日常で言えないですよね。
言う方もいるかもしれませんけど。当時うちの子は5歳と2歳で、改めて「あなたは私の宝物だよ」と伝えるって、ドキドキしましたもん(笑)。
青:そういうツールがあると、伝える「きっかけ」になるよね。子供のためでもあるけど、お母さん自身のためでもある。
絵:できあがって数年経って、そこに記した想いは、絵本を開くたびに違った受け取り方になっていきます。絵本は子供のためではあったけれど、自分の想いもそこに残せたことが良かったなと。
今後何十年経ったとしても想いは変わらず残ります。
当時の子供との些細なことが書いてあったり、日常のひとコマとして「フッ」と笑ってしまうようなことが絵本の端々に表現されている。些細だからこそ、残しておかないと忘れてしまうし、自分が時間をかけて作った絵本だからこそ、余計に思い入れが強くなる。
作る過程でも想いを噛み締めながら作れるんです。
あの日あの時
青:写真を撮っておくだけとはまた違った良さがあるよね。なんと言っても手作りだし。手作りのプロセスって、作り始めと完成したあとでは、想いの総量が増えている気がする。最初は気軽だったとしても、考えながら作るだろうから完成した頃には想いが募っていそうだよね。
絵:発酵するんですよ(笑)。
青:(笑)きっと見返すタイミングでも、伝わってくるものが変化するよね。例えばめちゃくちゃ喧嘩した時に読むと、当時の想いがフラッシュバックして相手を許せたりするとか。
絵:お子さんが中学2年生の時に絵本を作ったメンバーがいて、思春期で難しい時期だったから渡しかたに悩んで、ドキドキし過ぎて泣いちゃったりしていましたね。
考えた結果、面と向かって渡すのではなく、トイレにこっそり置いたらしいんです。言葉として直接伝えることが難しい関係性だったとしても、間接的なコミュニケーションにも繋がるんです。
青:初心や原点を思い出すツールとしてもいいよね。「あの時こう思ってたな」とか。そういう想いって日常ではなかなか思い出さないよね。
絵:私も、昨年のコロナ禍で学校が休みで子供たちが家にずっといた時に、けっこうストレスが溜まっちゃって(笑)。子供たちがうるさくて、私は怒ってばかりみたいな(笑)。でも寝静まった後に寝顔を見ながら絵本を見ると「そういえば可愛かったんだな」と思い出したり(笑)
青:過去形(笑)。
絵:(笑)自分の気持ちをなだめてくれるツールにもなっています。
青:絵本作りは、子育て疲れも「リセット」できるというか…ポジティブに作用する「きっかけ」になるんだね。
ライフイベントのたびにページを追加していくような、「人生に寄り添う絵本」になったらいいよね。「親から子へ、子から孫へ」みたいな伝承できるようなのも面白いよね。
日本に蔓延する「当たり前文化」
絵:日本の主婦たちは褒められる機会が少ないんですよね。「子育てして当たり前」「家事して当たり前」という風潮がまだまだある。
ワークショップに参加して、色んな人たちと作品作りをしていると、カラペ1枚でも「面白いね!」「素敵だね!」ってフィードバックをもらえるんです。それだけでも満たされる人が多かったりします。
青:根本的には、家事、子育てをするのは女性…という世の中の風潮が良くないよね。
絵:だいぶ変化してると思いますけど、まだまだ残ってますよね。
例えば、旦那さんが大企業に勤めているあるご家庭では、旦那さんの帰りが夜中になることも多い。そうすると、家のこと子供のことはママが全部やるしかないという状況らしいです。
女性の育った「家庭環境」でも違いますよね。
お母さんが「ガッツリ主婦」で、お父さんは「家にいるときは何もしない」みたいな家庭に育つと、気が付かないうちにそれが当たり前の感覚として染み付いているんです。旦那さんに「手伝って」と言ってはいけないと思い込んでいたりもする。
この考え方の転換を社会的に目指さないと、変わらないですよね。親の世代から無意識に継承されてしまっている「当たり前」が変化を妨げていると思います。
そこに「カラペ」で提案できることがあるなと思っています。ひとりひとり個性があって、カラーが違うことを伝えていきたい。
人間も全く同じで、どんな色であっても「私はこの色だ」と思えば唯一無二だろうし、自分の色として尊重されるべきもの。旧態依然とした日本文化に気づきを与えるツールとしてカラペを活かしていきたいと思います。
家族だからこその尊重
青:確かに「色」という例えは、どの世代にも伝わりやすい。そう考えると家族全員でやってもらいたいね。親のアップデート、夫のアップデートも必要であれば、みんなでやった方が「気づき」が多い気がする。
絵:楽しいワークを通じて、コミュニケーションが円滑になたり、心が前よりもオープンになってくれたら嬉しい。目に見えるほど関係が良くならなくても、「気づきの時間を持てて良かったな」と感じてもらえたらと。
青:確かにそういうきっかけでもないと、考えることもないだろうしね。僕は父と「生き方について」とかをゴリゴリに喧嘩しながら討論してたけどね(笑)。
絵:そうなんですね(笑)。親や兄弟と全く話さないという家庭もありますからね。例えば関係改善や会話のきっかけに「カラペ」をやるのも良いかなと思います。
青:確かに。家族間で対話になるツールって意外と少ないのかもしれない。
絵:人生ゲームとか(笑)。
青:確かに(笑)。でも人生ゲームで人生語ったことないな(笑)。
絵:他の人とのカラペの違いを見て「これだけ色が違うんだから意見が合わなくても当然」「違いを受け入れ合おう」と思ってもらえたら嬉しいです。
青:家族間でも個人が尊重されるべきだと思うしね。
絵:そうなんです。家族こそ個人が尊重される必要があるんです。他人だから割り切れることでも、身内になると割り切れなくなることもありますよね。
社会課題に挑むツールとして
青:カラペハリエが今後目指すところは?
絵:「私たちがこの時期に伝えられることってなんだろう」と、コロナの自粛期間中に色々と考えました。
その結果、今まで絵本が主軸だったけれども、カラペと貼り絵を「個性を受け入れ、認め合う世界」「みんな違うから面白い」という在り方を体現するために役立てたいと思ったんです。
その考えがまとまったタイミングで、「カラペだるま」プロジェクトのコラボの話をいただきました。「自分の色で自分の願いを込めたダルマを作る」という「わたし彩(いろ)の願い」という企画になりました。
コロナでマスクやワクチンなどの色々な情報が交錯するなか、どの情報を採用するかは自分次第。ひとりひとりが自分で考え乗り越えなくてはいけない状況だった時に、もう一度自分らしくあるためにダルマに願いを込めたり、コロナの終息を願う意味でもピッタリのプロジェクトになりました。
青:そういった「カラペハリエ」の素晴らしい精神性を広めたいよね。世の中のためになる活動であることは間違いなくて、様々な課題を知ってもらうためのツールとして多くの表現の幅を持たせることができると思うから、リアリティがあり、温かみのある伝え方ができる。
絵:それぞれの色を個性として尊重し受け入れ合うために、様々な社会課題の解決のツールとして活かしていきたいなと。
自分たちで掲げたビジョンを目指して活動を続け、偶発的な出会いから生まれるプロジェクトも楽しみたいです。これから出会う人たちとも、良い未来を描けるようなコラボレーションをしながら、色の力で課題解決に使っていけたらと思っています。
あとがき
僕は絵里ちゃんと話をしていると、基本的にブレストになってしまいます(笑)。このインタビュー中も様々なアイデアが飛び交い、半分はブレストでした(笑)。でもそれくらい「関わりしろ」のあるツールなんだと思います。
色の力を信じ、個性が受け入れられる世界を目指す「カラペハリエ」。
個性というよりも、人と人との関係性を「色」を使うことで境界をグラデーションにし、一方で分断化が進む世界へのアンチテーゼなツールとして認知されてほしいと願っています。
\SNSで記事をシェア/
この記事を書いた人
青柳徹
「ネガポジ転換論」担当
県南エリア出身
関連記事
Related
この記事を読まれている方には
こちらもおすすめ!