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「介護 3.0」①|ネガポジ転換論
みなさんは「介護」に対してどんなイメージを持っていますか?
いわゆる「3K(きつい、汚い、危険)」の職業と言われることもあり、ポジティブなイメージがあまりないかもしれません。
介護の原体験
僕の介護に対する原体験を少し書かせて下さい。
僕の祖母は100歳まであと1週間というところで亡くなりました。亡くなる前の5年以上は認知症で、会いに行っても僕だということを分かってもらえない状態でした。
同居していた祖父も認知症を患っていて、母が在宅で介護をし、平日はデイサービスに通っていました。突然怒鳴ることもありましたし、床に排泄してしまった際には、その後に掃除をする母の大変そうな姿を見ていたため、「他人の人生を縛りつけてまで生きる意味ってなんだろう?」と考えたりもしました。
新しい介護
もしこの時期に、今回ご紹介する「介護3.0」理論の提唱者「横木 淳平」さんに出会っていたら、僕の介護に対する認識は180度違っていたでしょう。そのくらい彼の介護に対する考え方はセンセーショナルで、本質的で、人の心を撃ち抜きます。きっと誰もが理想とする介護の形です。
しかし、それをスタンダードとして定着させるためには、いくつものハードルが待ち構えています。
今回は「介護の在り方」そのものを変えるかもしれない男の「挑戦」というブランディングストーリーをご紹介します。そこには介護という枠を超え、人間の生き方を問い直すような本質的な考え方が詰まっています。
介護というネガティブイメージが定着してしまった業種を、どういった視点で価値転換をしていったのかを紐解きたいと思います。
介護3.0とは
「介護3.0」とは、僕が考案したワードです。
横木さんの活動の総称として、現状と未来に予測される介護と比較しやすくするために名付けました。それでは1.0から説明しましょう。
「1.0」
オムツ交換・食事介助・着替えなど、お世話を中心とする現状の介護。
「2.0」
これから訪れるであろう、業務効率化とサービスの質向上を目指し、ロボットの導入やICT化を推進、テクノロジーにより人材不足解消や労働環境改善を解決しようとする動き。
「3.0」
そして「3.0」ですが、これは未来予測ではありません。現在、横木さんが実践し続けている介護スタイルになります。
横木さんは「介護3.0」をこう定義されています。
・「その人らしい生活を取り戻すための媒介になる介護」
・「その人一人ひとりの夢をかなえる介護」
・「やりたいことが実現し、行きたい場所に行ける。逢いたい人に逢えて、人生でやり残したことが実現できる状態」だそうです。
介護士への解釈
「介護3.0」では、これまでの介護士の日々の業務の捉え方が全く違います。
例えば、排泄処理に関しては、従来は「オムツの処理」ですが、介護3.0では「プライド」と捉え、食事も「治療」ではなく「コミュニケーション」、レイクリエーションも「余暇活動」ではなく「生きがい」と捉えます。
しかも、考え方として捉えるだけでなく実践されています。
オツムでなくトイレ
横木さんが施設長を務める「介護付有料老人ホーム 新」では、利用者さんは誰一人としてオムツをつけていません。トイレを使用しています。
排泄は本当にプライドですよね。歳を重ねたからといって、下半身を他人に見られることが平気になるはずがありません。できればお世話にならずに自分で対処したい。
介護士さんもできればプライドを傷つけるようなことはしたくないはずです。
なぜ「介護付有料老人ホーム 新」では、オムツをせずに自身で排泄が可能なのか。横木さんは「大事なのはアンテナを張り、シグナルを見逃さないことだ」と言っています。
お年寄りが発する「トイレに行きたい」というシグナルを見逃さず捉えて、トイレまで連れて行き便座に座らせてあげる。そしてトイレの外から見守る。排泄音が聞こえてきたら「ヨッシャ!」とガッツポーズをするらしいです。
お年寄りのプライドを保つために、スタッフはアンテナを研ぎ澄ませ、プロの介護士として努力し尽くす。その介護に対するストイックまでの姿勢が、その人らしい生き方ができることへと繋がっているのではないかと思います。
認知症の解釈
そもそも横木さんは認知症の捉え方が違います。
「認知症とは周りの目を気にせず、自分の感情に素直になる病気。今、その瞬間を全力で生きる人」だと。
認知症は個人差があり、症状も行動も人によって全く異なります。全く違うはずなのに「認知症」というカテゴリーで一括りしにしてしまうことで、シグナルが見えにくくなるそうです。
すべての人間には個性があります。そして認知症にも個性があります。見えていたはずのものが、思い込みによりバイアスが掛かり、見えなくなることがあります。
健常者、認知症といったカテゴリー分けをせずに、一人の人間として真正面から向き合う。それが「介護3.0」の根幹でもある「最期までその人らしく生きる」という理念を実証していることになっていると感じます。
介護3.0が目指すもの
例えば右腕が動かないお年寄りがいたとします。従来の介護は、動かなくなってしまった右腕の代わりになろうとします。しかし「介護3.0」では、動かなくなってしまった右腕よりも、動く左腕をどのように使ったらその人がより幸せに生きられるかを考えます。
介護はどうしても短所に目が向きがちです。動かないことは辛いことですが、今動く部分をどうポジティブに捉えるかで、その人らしい幸せな生活が送れることに繋がります。
その人らしさ
「介護3.0」では短所よりも長所を伸ばし、その人らしい生活が送れるような目標設定をし実践しています。「その人らしい生活・その人らしさ」は、ちゃんと個人を見ないと理解できるものではありません。
その人らしさを突き詰めた介護スタイルは、運営コストが掛かるかもしれません。しかし、介護する側とされる側ではなく、お互いが価値を与え合うような対等な関係で、本当に素晴らしい人生を送れるようなコミュニケーションデザインができたら、職業としてのネガティブイメージも、老いることへの恐怖も軽減していくに違いありません。
これでいいのか?
横木さんが学生時代に目の当たりにした、管理し制限し全てを諦めさせてしまう介護。その時生まれた違和感を自分なりに因数分解し、解決策を模索し、試行錯誤しながら実践を続けた結果、「介護3.0」というスタイルへと辿り着きました。
自分の中に生まれた「違和感」を放置せず、これが本当に自分にとって、広くは社会にとって良いことなのかを考え尽くすことの重要性を教えてくれます。
「本当にこれで良いのか?」「これでみんなが幸せになれるのか?」既存の当たり前を疑い、自分の違和感を大切にする。その繰り返しが、自分らしいスタイルへとたどり着く方法なのかもしれません。
もっと何かできたんじゃないか?
最後に、横木さんはこれまで100人以上のお年寄りを看取られたそうです。
その度に「もっと何かできたんじゃないか」と自問自答をし、チャレンジを繰り返してきました。
「今の自分のスタイルは100人以上のお年寄りの命を通して形づくられました。だから僕の介護は誰にも負けません」と横木さんは言います。
これからの超高齢化社会において、介護の在り方も変わらざるを得ません。
その時、時代はどんな介護を選択するべきか?今がターニングポイントとも言えます。
次回は「介護3.0」が考える、「介護からの街づくりと、在宅ケアの可能性」についてご紹介します。
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この記事を書いた人
青柳徹
「ネガポジ転換論」担当
県南エリア出身
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